中国の地名はなぜ紛らわしい?省・地級市・県級市の違いを蘇州市を例に解説

中国の行政区は省・市区・県市・鎮郷の4段階で、日本の都道府県と市区町村の2段階とは仕組みが異なります。蘇州市は面積8,657km²と兵庫県(8,396km²)ほどあり、その中に昆山市という別の「市」まで含まれます。地図やホテル予約サイトで迷わないための見方を実例を示して整理します。

筆者は中国旅行35年、73回、320ヶ所を渡り歩く中で、1990年代にこの仕組みを理解しました。地名の呼び方が時代とともに変わっていく場面にも立ち会ってきたため、ガイドブックと現地の食い違いが生じる理由もあわせて解説します。

中国の行政区はなぜ日本と違うのか?省級から郷級までの4段階

日本の行政区分は都道府県と市区町村が中心です。これに対して中国は、省級・地級・県級・郷級の4段階に分かれており、同じ「市」という文字でも段階が異なります。

4段階それぞれに属する行政区の呼び名は次のとおりです。括弧内がそのレベルにある行政区です。

  • 省級(省、自治区、直轄市)
  • 地級(地級市、地区、自治州、盟)
  • 県級(市轄区、県級市、県、自治県、自治旗、特区、林区)
  • 郷級(街道、鎮、郷、蘇木、民族郷、民族蘇木、県轄区)

旅行者が地図や宿泊予約サイトでよく目にするのは、地級の「市」と、県級の「区」「県級市」です。この3つの関係を押さえれば、地名の多くが読み解けます。

中国の「市」は3種類?直轄市・地級市・県級市の違い

日本の市は自治体の基本単位ですが、中国の「市」には「直轄市」・「地級市」・「県級市」の3つのランクがあります。ランクによって、省との関係や管轄する範囲が変わります。

北京、天津、上海、重慶の4市は直轄市で、省と同じレベルです。南京、厦門、昆明などは地級市で、直轄市よりひとつレベルが下がります。地級市の下に置かれる昆山市や張家港市は、県級市にあたります。

市のランク位置づけ例
直轄市省級(省と同じレベル)北京、天津、上海、重慶
地級市地級(省の下)南京、厦門、昆明、蘇州
県級市県級(地級市の下)昆山、太倉、張家港

表のとおり、同じ「市」でも直轄市と県級市では2段階の差があります。蘇州市のような地級市の中に県級市が含まれる点が、次の「市中市」を理解する前提です。

蘇州市の規模感は?日本の県と同じ面積、東京都並みの人口

中国の規模感をつかむために、世界遺産の町として知られる江蘇省蘇州市(苏州 Sūzhōu)を例にします。蘇州市は地級市で、地図の赤線で囲まれた範囲が地級市、紫色の線が市轄区と県級市、茶色の線が直轄市を示します。

蘇州市の面積は8,657km²で、日本では広島県(8,479km²)や兵庫県(8,396km²)と同じ規模です。人口は1,295万人(2023年)で、東京都に近い水準です。

8,657km²

蘇州市(地級市)の面積

兵庫県(8,396km²)と同規模

1,304万人

蘇州市の人口(2025年)

東京都に近い人口規模

1億2,780万人

広東省の人口(2024年)

日本一国に並ぶ人口規模

日本と蘇州市、広東省を並べると、中国の「省」と「地級市」の規模がよくわかります。比較のために、日本の主な都道府県の面積は東京都が2,193km²、大阪府が1,901km²、北海道が83,460km²です。

地域面積人口
日本377,959km²1億2,269万人(2026年)
蘇州市8,657km²1,304万人(2025年)
広東省179,800km²1億2,780万人(2024年)

広東省ひとつで、日本全体と同じ規模の人口があります。経済力のある省は、経済規模でもヨーロッパの中規模国に匹敵します。

県と市はどちらが格上か?市轄区・県級市・県の位置づけ

中国の「県」は、日本の県とは違って低いランクの行政区です。同じ県級に属する市轄区や県級市と並べても、田舎の印象が強くなります。

県級に属する市轄区・県級市・県は、蘇州市では次のように分かれます。

  • 市轄区:呉中区(吴中区)、相城区(相城区)、姑蘇区(姑苏区)など
  • 県級市:昆山市(昆山市)、太倉市(太仓市)、張家港市(张家港市)など
  • 県:なし

地図では、赤線が地級市、紫の点線が市轄区と県級市です。市轄区は蘇州市の中心部か周縁部にある例が多く、さらに離れた位置に県級市や県が置かれるのが一般的です。

混乱の原因は、蘇州市と昆山市の関係です。昆山市は蘇州市の管轄下にある県級市で、この状態が「市中市」(市の中の市)と呼ばれます。

タクシーで行き先を伝えるときは、なぜ階層を意識すると誤解が減るのか?

「蘇州市」と言えば市全体を指しますが、区の名前を添えると範囲が絞れます。伝える側が市と区のどの階層で話しているかを意識するだけで、運転手との行き違いが減ります。

正確な行政区の名前を使うことは、タクシー運転手に限らず地元の人とのやり取り全般をスムーズにします。

市中市とは何か?昆山市が蘇州市の中にある理由

日本人が最も混乱しやすいのが「市中市」です。ある市の中に別の市がある仕組みで、日本には存在しません。日本では市と市が隣り合うことはあっても、市の中に別の市が入ることはないからです。

蘇州市の中にある昆山市(昆山 Kūnshān)は、蘇州市とは別の行政区で、姑蘇区や虎丘区と同じレベルに位置します。中国の人々はこの関係を普通に理解しており、違和感を持っていません。

「昆山市内のホテル」は「蘇州市内のホテル」と言えるのか?

言えます。昆山市は蘇州市の管轄内にあるため、昆山市内のホテルに泊まることは、蘇州市内のホテルに泊まることでもあります。ただし、蘇州市の中心部から昆山市までは車でも地下鉄でも1時間以上かかり、観光の拠点としての距離感は別物です。

この距離感の違いを旅行者の視点で想像したシミュレーションにして、note記事「昆山市内に泊まれば蘇州市内?日本の「同じ市内」が通用しない中国の地名」で一人称で書きました。

北京の「区」はなぜ性格が違うのか?密雲県が区になった経緯

北京市の下にある行政区は、すべて市轄区です。ただし同じ「区」でも、歴史的な経緯によって位置づけや格付けが異なります。

たとえば密雲区は、以前は密雲県(密云县)と呼ばれていました。都市化の進展によって区に改められたもので、中国の急速な都市化を示す一例です。

北京市行政区画図
北京市行政区画図

こうした改編があるため、ガイドブックの地名が数年で古くなることがあります。背景の説明がない本も多く、現地の表記と食い違う原因になります。

北京の市轄区の違いを知ると、旅の立地はどう読めるのか?

東城区には故宮や天安門広場があり、海淀区には北京大学や清華大学といった有名大学が集まっています。郊外の各区は、長城など自然景観に恵まれた観光地が多い地域です。

区の特徴を知っておくと、観光地どうしの立地関係や、北京がどのような都市なのかをつかむ助けになります。

北京市区境界線基礎地図(北京市民生局など)
北京市区境界線基礎地図(北京市民生局など)

地名の知識は旅にどう役立つのか?旅程・移動・宿泊の3場面

中国の地名や行政区の理解は、知識で終わらず、旅行や滞在中の判断に直接使えます。ここでは旅程づくり、市内の移動、宿泊先の選び方の3場面に分けて整理します。

旅人の視点と行政区の知識を合わせると、参考にできる具体例も増えます。

旅程づくりで行政区をどう使うのか?

行政区を理解すると、地理的に近い観光地をまとめて、効率のよい旅程を組めます。中心部にあるのか郊外にあるのかを先に知っておけば、1日目は中心部だけ、2日目に郊外といった組み立てが明確にイメージできます。

同じ市内なのに移動に時間がかかるのはなぜか?

蘇州市の中心部から県級市の昆山市までは、同じ市内でも車で1時間以上かかります。地下鉄でも、同様に1時間以上必要です。

上海市から蘇州市への移動も、日本の感覚では「隣町」に見えますが、地理的には省をまたぐ移動です。県から県へ行くイメージを持つと、所要時間の感覚がつかみやすくなります。

📖 あわせて読みたい

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蘇州と無錫を結ぶ路線バス — 蘇州から無錫へ片道40円で移動する路線バスの乗り方を紹介

宿泊先を選ぶときは所在地の何を確認すればよいのか?

市轄区にあるホテルは、地下鉄や路線バスがあるため交通の便がよく、主要観光地へ行きやすい傾向があります。宿泊予約サイトでは、○○市や▢▢区といった所在地を必ず確認し、地図で中心部との位置関係を見てください。

Trip.com 地図で蘇州市内のホテルを表示している画面
Trip.com 地図で蘇州市内のホテルを表示している画面

思ったより中心部から離れた郊外にあるケースが見られます。日本の感覚で「同じ市内だから遠くない」と考えると、移動に時間がかかって予定が崩れます。予約前の確認項目を次にまとめました。

宿泊先を取り違える場面を想像したトピックとして、note記事「昆山市に泊まれば蘇州市内?」に書いています。

✅ 予約前に確認する所在地のチェック項目

☐

所在地が「市轄区」か「県級市・県」かを確認した

☐

蘇州市のように広い市では、市名に続く区の名前まで読んだ

☐

地図で中心部との位置関係を確かめた

☐

近くに地下鉄や路線バスがあるか確かめた

中国の行政区に関するよくある質問

ここまでの内容で、読者の方から出やすい疑問を5つにまとめました。各質問をクリックすると回答が開きます。

A. 地級市(ちきゅうし)は、省の下に置かれる地級の市で、日本の県と同等の面積と人口規模を持ちます。南京、厦門、昆明、蘇州などが該当します。
A. はい、昆山市(昆山 Kūnshān)は蘇州市の管轄下にある県級市です。蘇州市の中に昆山市があるこの状態を「市中市」と呼びます。
A. いいえ、中国の県は市轄区や県級市と同じ県級に属する低いランクの行政区で、日本の県のような広域の単位ではありません。
A. いいえ、北京市の下にある行政区はすべて市轄区です。ただし歴史的な経緯により、同じ「区」でも位置づけや格付けが異なります。
A. 「市中市」は「しちゅうし」と読み、ある市の中に別の市が存在する状態を指します。蘇州市の中の昆山市がその例で、日本には同じ仕組みがありません。

まとめ 行政区の4段階と市中市を押さえて旅を組み立てる

中国の地名や行政区は複雑ですが、基本の構造をつかむだけで背景の理解が進みます。特に「市中市」と、直轄市・地級市・県級市の違いを知っておくと、現地での移動や情報収集、交流がスムーズになります。

35年にわたる中国旅行の経験から言えるのは、こうした地理の知識が旅の準備にとどまらず、中国の歴史や文化、社会構造を知る手がかりにもなるということです。要点を次に整理します。

📌 中国の行政区を旅に使うための5つの要点

  • 中国の行政区は省級・地級・県級・郷級の4段階で、日本の都道府県と市区町村の感覚では読み解けません。
  • 市には直轄市・地級市・県級市の3ランクがあり、昆山市は蘇州市の管轄下にある県級市です。
  • 中国の県は低いランクの行政区で、市轄区・県級市と同じ県級に属します。
  • 同じ市内でも、蘇州市の中心部から昆山市までは車でも地下鉄でも1時間以上かかります。
  • 宿泊先は、所在地の市と区を確認し、地図で中心部との位置関係まで見ます。

行政区の見方がわかったら、次は実際の移動手段も確認しておくと安心です。あわせて読んでおきたい記事を紹介します。

蘇州市と昆山市のように、予約サイトの表記だけでは宿泊エリアを判断しにくい場面があります。宿の所在地や行き先の地名・行政区で迷ったときは、旅の計画段階から個別にご相談ください。

宿の所在地に関する短い質問だけであれば、無料質問フォームからお送りください。

筆者情報

安田こうじ
安田こうじブログサイト「中国旅行ドットコム」運営者
1991年から35年、73回、320ヶ所を個人旅行で歩いてきた中国旅行専門家。ツアーでは入れない路地裏や地方の町まで足を運び、リアルな中国渡航情報を発信しています。旅する中国語講師としても活動中。詳細は筆者紹介をご参照ください。問合せはこちらまで。

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