旅行者必見!中国の地名・行政区の読み方ガイド ~30年の旅経験から解説~
中国旅行で地図を見たり、ガイドブックを読んだりする際、「〇〇区」「△△市」「□□県」など様々な地名を目にすることがあります。
中国は漢字文化圏で日本と同様に漢字を使っているため、一見すると理解できそうに思えて、つい日本の都道府県と同じように考えてしまいがちですが、実は日本と中国では行政区の仕組みが大きく異なります。
中国旅行歴30年の作者はこれから解説する行政区の概念は1990年代に理解していて、旅の歴史の中で地名の呼称が変化していることを実感していまして、地理に疎い中国人よりも詳しいレベルです。
30年にわたる中国旅行の経験から、中国の地名や行政区の基本的な仕組みをわかりやすく解説するとともに、他にはない、行政区の読み方と関連した旅の計画に役立つ情報も提供します。
中国の行政区
日本は”都道府県”や”市区町村”にあたる区分が行政区にあたります。一方で、中国は概念が日本とは異なり、”省級”、”地級”、”県級”、”郷級”と4つのレベルがに分かれます。
- 省級(省、自治区、直轄市)
- 地級(地級市、地区、自治州、盟)
- 県級(市轄区、県級市、県、自治県、自治旗、特区、林区)
- 郷級(街道、鎮、郷、蘇木、民族郷、民族蘇木、県轄区)
括弧()はそのレベルにある行政区の呼び名です。
”市” には3つのランクがある
日本では”市”というのは地方自治体で基本となる単位で一番馴染みのある行政区です。中国では”市”はどういう位置付けなのでしょうか。次の3つのランクがあります。
- 直轄市
- 地級市
- 県級市
北京、天津、上海、重慶は”直轄市”で、省と同レベルの市です。南京、厦門、昆明などは地級市となり、レベルがひとつ下がります。更には、地級市の下に昆山市、張家港市があるのですが、これらは県級市です。
蘇州市の場合
最初に中国の規模感を知っていただきたいので、世界遺産がある町として皆さんに知られている江蘇省蘇州市を例に解説します。

赤線で囲ってある地名が”地級市”です。紫色の線で囲っているのは”市轄区”、”県級市”、茶色の線は”直轄市”です。
蘇州市は”地級市”です。
日本で面積が同規模の県は広島県と兵庫県です。
広島県 8,479km²
兵庫県 8,396km²
東京都 2,193km²
大阪府 1,901km²
北海道 83,460km²
イメージを具体化するために更に別の例を挙げます。
省の下にある”地級市”レベルですが、日本の”県”と同等の面積、人口規模があると言えます。蘇州市は東京都並の人口規模です。
日本 377,959km² 1億2,344万人(2025年3月)
蘇州市 8,657km² 1,295万人(2023年)
広東省 179,800km² 1億2,780万人(2024年12月)
広東省であれば、日本1国の人口規模があります。経済で言えば、中国の経済力のある省はヨーロッパ中規模国程度の経済規模はあります。
県と市
中国の”県”は日本とは異なり低いランクの行政区になります。同格の市中”市”と比べても田舎感があります。
市轄区、県級市、県が同じレベルですが、蘇州市を例にしますと次の分け方になります。
- 市轄区 呉中区(吴中区)、相城区(相城区)、姑蘇区(姑苏区)など
- 県級市 昆山市(昆山市)、太倉市(太仓市)、張家港市(张家港市)など
- 県 なし

上の地図ですが、赤線が”地級市”、紫点線が”市轄区”、”県級市”にあたります。
ここで混乱しやすいのは、「蘇州市」と「昆山市」の関係です。昆山市は蘇州市の管轄下にある”県級市”であり、これが ”市中市”(市の中の市)と呼ばれる状況です。
”区”は”蘇州市”の中心部又は周縁部にある行政区が多く、更に離れた位置にあるところが”市”や”県”となるケースが一般的です。
旅達人的ポイント①
タクシーの運転手に行先を伝える際には、このような階層関係を意識すると誤解が少なくなります。
市の中にある市 ”市中市”の不思議
日本人にとって最も混乱しやすいのが ”市中市” という概念です。これは日本にはない行政区の仕組みで、とある市の中に別の市が存在するという状況を指します。
日本では市と市が隣接することはあっても、市の中に別の市が存在することはありません。
具体例を示しますと、蘇州市の中に昆山市がありますが、それぞれ別々の行政区で、中国人は普通に理解していて違和感は持っていません。同じレベルに姑蘇区、虎丘区などがあります。区と同レベルの市となります。
旅達人的ポイント②
観光客視点で考えると、例えば「昆山市内のホテルに宿泊する」と言った場合、それは蘇州市の管轄内にある昆山市を指します。「蘇州市内のホテルに泊まる」とも言えます。
市街地と郊外の”区”
北京市の下にある行政区は全て”区”で”市轄区”です。ただ、歴史的な経緯があり、同じ”区”と称されていても位置付け、格付けが異なります。
以前は、密雲県(密云县)と呼ばれていましたが、都市化の進展により区に改編された経緯があります。
これは中国の急速な都市化を示す一例であり、旅行ガイドブックが数年で古くなってしまうケースがあったり、説明がなく、背景を理解されない部分があります。
旅達人的ポイント③
北京市内の「市轄区」の違いを知ることが大切です。
例えば、東城区には故宮や天安門広場があり、海淀区には北京大学や清華大学といった有名大学が集中しています。
郊外の各区は長城があるなど、自然景観に恵まれた観光地が多数あります。
このような区の特徴を知っておくと、立地関係の理解や北京がどういった所なのかを知る一助となります。
地名を活用した旅行テクニック
中国の地名や行政区を理解することは、単なる知識以上の価値があります。旅行や現地滞在に大きく役立ちます。次のトピック毎に例を示します。
- 旅程の最適化
- 移動手段の選択
- 宿泊場所の選定
- 地元の人とのコミュニケーション
こちらは旅人視点と行政区に関する知識を併せ持っていることで参考事例も出して理解しやすくしています。
① 旅行計画の最適化
行政区を理解することで、地理的に近い観光地をグループ化し、効率的な旅程を組むことができます。
立地がどこになるのか、中心地にあるのかというのを知っておけば、滞在1日目は中心部だけ、2日目に郊外をまわるといったことが明確にイメージできます。
(蘇州滞在中のスケジューリング例)
1日目 寒山寺、拙政園、虎丘、獅子林など中心部の世界遺産
2日目 上海蟹を養殖している陽澄湖畔
3日目 水郷で有名な周庄、同里古鎮
② 移動手段の選択
同じ市内でも、中心部から県級市までの移動は思った以上に時間がかかることがあります。例えば、蘇州市中心部から昆山市へは車で1時間以上かかります。地下鉄でも同様に1時間以上かかります。
上海から蘇州《移動ガイド》 ~中国の世界遺産観光に便利なアクセス~
このブログ記事では上海市から蘇州市へ移動するために地下鉄利用について解説しています。
読まれますと思ったよりも時間がかかる感じがするかもしれませんが、上海市から江蘇省へ移動する、地理的には県から県へ移動するというイメージを持っていただくと分かりやすいです。
③ 宿泊場所の選定
”市轄区” に所在するホテルなど宿泊施設は、地下鉄や路線バスがあるため交通の便が良く、主要観光地にアクセスしやすい傾向があります。
宿泊予約サイトで○○市とか▢▢区といった所在地を必ず確認してください。思ったよりも中心部から離れた郊外にあるケースが散見されます。地図を見るとより分かりやすいです。
地名の考え方を知っておかないと、日本的に「同じ市内にある」からそう遠くないと思わると大きな罠に落ちてしまいますので注意が必要です。
④ 地元の人とのコミュニケーション
正確な行政区の名前を使うことで、タクシー運転手や地元の人々とのコミュニケーションがスムーズになります。
まとめ ~中国旅行をより深く楽しむために~
中国の地名や行政区の仕組みは複雑ですが、基本的な構造を理解するだけでも背景の理解が進みます。
特に”市中市”という概念や、”直轄市”と”地級市”などとの違いを知っておくと、現地での移動や情報収集、交流がスムーズになります。
30年にわたる中国旅行の経験から言えることは、このような地理的知識は単なる旅の準備にとどまらず、中国の歴史や文化、社会構造を理解する手がかりにもなるということです。
地名の由来や行政区表記の歴史の変遷を知ることで、訪れる場所への理解が深まり、旅行がより一層充実したものになるでしょう。
次の中国旅行では、ぜひこの知識を活かして、より深く中国を理解いただければ嬉しく思います。
作者プロフィール

- ブログサイト「中国旅行ドットコム」運営者
-
1991年から30年間で70回以上の中国訪問歴を有するベテラン旅行ブロガー。
中国旅行に興味がある方や個人旅行を計画している方、中国のリアルな姿を知りたい方向けのブログサイト「中国旅行ドットコム」を運営。
大都会の路地裏から田舎の町や村まで足を運ぶ、ツアーでは決して体験できない独自の旅行スタイルを持つ。
【個人旅の実績】 訪問した省・市・自治区:32(残1) 訪問地:200以上
【印象に残る旅のエピソード】 数え切れず
【撮影した写真】 45,000点以上
安宿に泊まり、長距離バスや夜行列車などのローカルな移動手段を使って、現地の人々と触れ合い、肌に感じる旅をして、リアルな中国渡航情報を発信中。
1日100元以内での滞在に挑戦するなど、旅の費用を抑える工夫が得意。独自の旅のノウハウを有し、海外モバイル経験も長く、ANA陸マイラーでもある。
旅先での中国語会話を実践して、通じる中国語を教えることにも取り組んでいる。中国語に堪能でVIP通訳に従事したことがあり、訪日視察団のアテンドをしたことも。経験を活かして、コミュニケーション促進のための中国語も含め講師として教えて6年超。
ブログをご覧になられた読者との交流も大切にしており、いただいた質問に対応したり、いただいた情報をブログや動画に反映している。
詳細は作者紹介をご参照ください。問合せはこちらまで。
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