中国キャッシュレス天国の決済事情と現金・カード対応の新展開

「中国旅行中、現金を使う場面がほとんどなかった!」そう語るのは、最近中国を訪れた旅行者です。コンビニ、レストラン、タクシー、観光地など、どこへ行ってもスマホ決済が当たり前になっている中国。さらに2024年からは、外国人向けの決済環境も大幅に改善され、ますます利便性が向上しました。本記事では、中国のキャッシュレス決済の現状と、旅行者が押さえておくべき最新情報をお届けします。

キャッシュレス決済普及状況

中国で統計資料を探すことは難しく適切なものがなかなかないのですが、分かりやすくて最新の数字が分かるものが艾瑞というリサーチ会社からレポートが出ていたので、現在の中国のキャッシュレス決済の現状を反映していると思われますので紹介します。

使用したことがある決済手段

  • スマホ決済 73.20%
  • 現金 63.46%
  • デビットカード(銀聯カード)46.40%

現金決済よりもスマホ決済の方が普及しているのが日本とは大きく異なる現状です。

日常使っているスマホ決済の種類

  • WechatPay 84.11%
  • AliPay(アリペイ) 83.66% 

2大決済方法が圧倒的なシェアを占めています。

スマホ決済時の方法

  • パスワード 75.34%
  • 指紋認証 55.82%
  • 顔認証 45.84%
  • NFC 24.66%

パスワード使用によるセキュリティ確保が基本ですが、指紋認証や顔認証も広く使われているのが分かります。

パスワード不要の支払い方法の活用状況

  • 交通機関の少額決済 57.81%
  • 買い物時の少額決済 52.19%
  • 公共の場所での支払 51.41%
  • 各種アプリの決済機能 40.47%
  • キャッシュカード関連機能として 22.66%
  • 使用したことがない 8.13%

現地で路線バスや地下鉄でスマホ決済を使う時、パスワード入力がないのは ”免密” (パスワード免除)と言われています。これら機能は、ほぼ半数の人が使われていますが、思った程多くないという印象です。

中国の決済事情 ~急速な変化の背景~

中国の決済環境は過去10年間で劇的に変化しました。かつて「現金社会」と言われた中国は、今や世界最先端のキャッシュレス大国へと変貌しています。この変化の背景には、テクノロジーの発展と社会的要因が密接に関わっています。

通信インフラの急速な発展

テクノロジーの発展ですが、通信速度の向上と端末の高機能化のふたつが挙げられます。

  • 4G・5Gの普及
    2017年時点で基地局の半分は4G、2022年には6割が4G、2割が5Gとなり、高速モバイル通信が一般化。
    中国における4G・5G基地局設置状況中華人民共和国工業和信息化部「2022年通信业统计公报」
  • スマートフォンの普及率
    2014年に94.5%だった携帯電話普及率は、2017年には100%を超え、複数所有者も含めて2020年以降は飽和状態に。
    携帯電話普及率推移中華人民共和国工業和信息化部「2022年通信业统计公报」
  • モバイルデータ通信の増加
    2015年〜2017年のモバイルデータ通信は年間20〜38%の成長率を記録。
    中国における移動データ通信収入状況中華人民共和国工業和信息化部「2020年通信业统计公报」「2022年通信业统计公报」

現金に存在する社会的要因

現金は昔から信用されていない決済手段でしたが、様々な問題を抱えていました。

  • 偽札問題
    人民元、特に100元札の偽造紙幣が横行し、昔から店舗では偽札チェック機器が必須でした。
  • 紙幣の品質
    古い紙幣のしわや破れが日常的で、日本なら銀行で回収されるレベルの紙幣が多数流通しました。
  • 財布を使わない人
    若者やオフィスワーカーを中心に都市部で財布が普及していたが、地方などでは、財布を使わずにポケットに直接入れる生活習慣が残っていました。
  • 自動販売機や券売機での拒否
    状態の悪い紙幣は機械で受け付けられないことが多く、現金使用に大きな不便が生じていた。店員が余りのひどさに受けてくれないこともしばしばでした。

これらの要因が重なり、中国社会はデジタル決済へと急速にシフトしていきました。

中国でのキャッシュレス決済の発展

2010年以降の環境変化は眼を見張るもので、キャッシュレス決済の発展にプラスとなり、コロナ禍で非接触決済が日常化して、現在に至っています。

決済手段の変遷

キャッシュレス決済の使用比率に関する調査結果によれば、2013年から2015年まではモバイル決済(スマホ決済)の普及率はライバル視できないくらいの小さい数字でしたが、2016年には4分の1に伸長し、それ以降はグラフを見て分かるように急成長をとげました。

中国における現金以外の決済手段の普及状況

上昇幅を見ますと、2016年と2017年のモバイル決済の伸びが著しいのは、前記の移動データ通信収入の大幅増とリンクしてる側面があるかと推察しています。

コロナ拡大前の2019年には6割近くをモバイル決済が占めていました。クレジットカードは6年間、伸びが全然見られませんでした。

時系列の大きな流れは次のとおりです。

  • 2010年代前半まで
    現金と銀聯カード(デビットカード)が主流
  • 2010年代半ば
    WechatPay(微信支付)とAliPay(支付宝)のスマホ決済が登場
  • 2016年以降
    モバイル決済が爆発的に普及し始める
  • 2019年
    決済全体の約60%をモバイル決済が占める状況に
  • 2025年
    キャッシュレス決済が主流だが、政策的に多様な決済方法の共存を推進

スマホ決済が爆発的に普及した理由

普及するには利用者側と事業者側、両方での理解がなければ成り立ちません。

事業者側のメリット

現地で個人事業者に中国語で直接聞いたところ、「手数料がかからないし、QRコードが印刷された紙があるだけで対応できる。」とのことで、この手軽さが爆発的な普及に繋がりました。専用の機器が必ずしも必要でないということが、中小店舗が導入する後押しとなりました。

  • 初期投資の少なさ
    専用リーダーの導入など初期投資が不要で、QRコードを印刷した紙だけで対応可能にしたビジネススキーム。
  • 決済手数料の優遇
    導入初期は手数料無料や低料金の運営会社側の優遇施策があった。
  • データビジネスの進展
    運営会社などによる決済データを活用した収益モデルの構築も進んだ。

利用者側のメリット

利用者側から見ますと、人民元で100元札の偽札が横行して多く出回っていたため、店舗や飲食店には必ず偽札をチェックする機器が置いてあるくらいだったのが、キャッシュレスであればそんな心配不要になるといった背景が大きいです。

  • 偽札リスクの回避
    デジタル決済で偽造紙幣の心配が不要になった。
  • 決済の手軽さ
    スマホ一つで支払いが完結し、お釣りの計算も不要に。
  • 割引などキャンペーン
    利用者獲得のための各種特典が魅力的だった。

中国人が日常的に使う決済手段

銀聯国際による日中韓に対する調査結果を見ていますと、日本人のキャッシュレス決済に異なる傾向が見られます。少額決済をメインにする日本人に対して、中国人は高額決済でも使用しています。

銀聯国際 【日中比較】金額規模別スマホ決済の使用割合
銀聯国際 【日中比較】実店舗の支払で現金を月いくら使っているか?

一方で、中国中央銀行の抽出調査によれば、高齢者の現金使用率は80.4%と未だ高く、地方住民は80.4%、都市部住民は67.6%でした。

2024年の新政策 ~外国人向け決済環境の改善~

2024年4月、中国政府(文化和旅游部と中国人民銀行)は「关于进一步优化重点文旅场所支付服务 提升支付便利性的通知」(重点文化・観光施設における決済サービスの更なる最適化並びに利便性向上に関する通知)を発表しました。

政策発出の背景

この施策の打ち出した経緯として次の3つの背景があります。

  • インバウンド促進 コロナ後の訪中外国人旅行者増加促進
  • 高齢者への配慮 デジタル弱者への対策
  • 多様な決済手段の共存 キャッシュレス一辺倒からの修正

但し、既に普及しているキャッシュレスを否定する政策ではありません。

対象施設

今回の通知で次に挙げられる施設は外国人向けの決済対応が大幅に進むことが想定されます。

  • 3スター、4スター、5スター級のホテル
  • 5A、4Aクラスの観光施設
  • 国家級、省級旅游度暇区(観光リクリエーション地区)
  • 国家級旅游休閑街区(都市部にある観光客向けの通り)

改善措置

次の措置は、日本人を含めた訪中外国人や国内の高齢者が消費者として支払いの選択権を与える趣旨のものです。

  • クレジットカード払いに対応
  • 現金決済の維持、拒否の禁止
  • 有人窓口の維持
  • 外貨両替所を増設

外国人の決済利便性向上に関する具体的な取り組みについてリサーチ会社がまとめたものですが、4点の特徴があると触れています。

  • 全方位的な決済手段
    高額はクレジットカード、低額はスマホ決済といった、外国人の支払い習慣に対応。「Shanghai Pass」など先払い制のプリペイド形式のカードの発行。
  • クレジットカード受入れ環境の改善
    多くの都市でクレジットカード受理環境の改善を実施。上海や浙江省では外国人向けのショップ等では90%以上カバーできている。
  • スマホ決済の利便性向上
    クレジットカードとの紐付けや実名認証の簡便化、決済限度額の増加などの措置を実施。
  • 現金使用環境の回復
    欠かせない決済手段としての現金の見直し。海外のカードによるATMでのキャッシングができるように改造。

地方も対応に動き出す

政府の動向は地方の動きに速やかに反映されます。キャッシュレス決済の便利さは維持されつつ、現金決済が断られるといったことは減るのではないかと期待しています。

上海市人民政府からの通知

実際の変化と今後の見通し

実際の動きとして次のようなことが見込まれ、中国旅行中の決済方法の選択肢が広がり、外国人旅行者の利便性が向上することが期待されています。

  • 国際空港 到着ロビーに専用対応窓口設置
  • 観光地 クレジットカード端末の再設置や現金対応の強化
  • タクシー お釣りがないという理由での現金拒否の減少
  • 旅行会社 ツアー参加などでカード決済対応の増加

クレジットカード決済普及を後押し

中国でクレジットカードがなかなか普及せず、コロナ禍で外国人訪問がなくなったことで、決済機器撤収が進み、逆に衰退してしまいました。

これまでは中国でインバウンド対応していたホテルやデパート、空港などが自主的に対応してきた部分がありました。

今後は、外国人がやってくるホテル、飲食店、デパートなどはクレジットカード対応が進むことになります。

まとめ

中国の決済環境は中央政府主導で外国人観光客にも恩恵が受けられる方向に進化しています。2024年4月の新政策は、外国人旅行者や高齢者など多様なユーザーに配慮した環境整備という点で重要な転換点となりました。

複数の決済手段を組み合わせることで、中国旅行中の支払いに関する不安を最小限に抑えて、充実した旅行体験を楽しめるようになればと思います。

作者プロフィール

旅人@中国旅行一筋30年
旅人@中国旅行一筋30年ブログサイト「中国旅行ドットコム」運営者
1991年から30年間で70回以上の中国訪問歴を有するベテラン旅行ブロガー。

中国旅行に興味がある方や個人旅行を計画している方、中国のリアルな姿を知りたい方向けのブログサイト「中国旅行ドットコム」を運営。

大都会の路地裏から田舎の町や村まで足を運ぶ、ツアーでは決して体験できない独自の旅行スタイルを持つ。

【個人旅の実績】 訪問した省・市・自治区:32(残1) 訪問地:200以上
【印象に残る旅のエピソード】 数え切れず
【撮影した写真】 45,000点以上

安宿に泊まり、長距離バスや夜行列車などのローカルな移動手段を使って、現地の人々と触れ合い、肌に感じる旅をして、リアルな中国渡航情報を発信中。

1日100元以内での滞在に挑戦するなど、旅の費用を抑える工夫が得意。独自の旅のノウハウを有し、海外モバイル経験も長く、ANA陸マイラーでもある。

旅先での中国語会話を実践して、通じる中国語を教えることにも取り組んでいる。中国語に堪能でVIP通訳に従事したことがあり、訪日視察団のアテンドをしたことも。経験を活かして、コミュニケーション促進のための中国語も含め講師として教えて6年超。

ブログをご覧になられた読者との交流も大切にしており、いただいた質問に対応したり、いただいた情報をブログや動画に反映している。

詳細は作者紹介をご参照ください。問合せはこちらまで。

中国旅行に関する質問や投稿、感想はこちらへどうぞ!