昔あって今ないもの《没有》メイヨー

「ありません」「ない」という意味の中国語、《没有》「メイヨー」(メイヨウ)をご存じでしょうか?

1980年代や90年代までに中国語を学び始めた方々にとって馴染みある言葉のはずです。私が中国に行って最初に耳にした印象に残った言葉が「メイヨー」だからです。

旅先の店舗で、店員が上から目線で言ったのが「没有」(メイヨー)です。「ありません」という意味で、そこらじゅうでメイヨーが聞こえました。私もご多分に漏れずその洗礼を受けました。

「メイヨー」が中国で多発した背景

1980年代は、首都の北京や商業都市の上海であっても、物の種類も量も満たされていない、不足していた時代でした。

毛沢東が逝去したことを契機に文化大革命が終了し、鄧小平が改革開放政策を始める前から、あらゆる物資が充足される1990年代後半まで、生活必需品や贅沢品が不足していたのです。

《糧票》という食糧の配給切符が存在していた時期とも重なります。中国旅行を始めたのは、《糧票》不要で旅ができるようになった、1991年でした。

旅行を始めた当初は、都会でも、物がすごくあふれているという感じまではいきませんでした。コカコーラが売っているだけ町はさすがに北京や上海では売っていましたが、東北地方ですと長春といった省都クラスのみで、中心部の繁華街でしか売られていませんでした。田舎の市や県クラスでしたらコーラの存在すらしませんでした。

そういった中で、物があるないということを尋ねた場合の答えとして、「メイヨー」を聞くことができました。

「大地の子」から知る物の少ない80年代

私が中国旅行を始めた時期が1991年ですので、ちょうど同じ時期で、当時の中国の社会状況は新聞や書籍、映像で知ることができました。

例を挙げたいと思います。山崎豊子作「大地の子」という小説をご存じの方はいらっしゃいますでしょうか?

小説自体は1991年に出版されたもので、作者本人が当時、中国の最高指導者であった胡耀邦総書記の理解を得て、現地を取材したことをベースとして執筆されたものです。当時の中国を日本人の眼で見た結果を物語にした貴重な作品です。

補足ですが、中国では国家主席や首相という職がありますが、それらよりも中国共産党のトップが実質的な国のトップと理解します。

その中で、中国の当時の状況を描写する記述があります。
主人公の陸一心は上海出張時に家族のため、お土産を選びました。妻にはデザインの映えたセーターを選んだり、娘にはキャンディーを買って、北京へ戻ったら家族が大変喜んだ場面があった描写は今でも覚えています。

「メイヨー」って中国語でどういう意味なの?

拼音と声調ですが「méiyǒu」でして、この発音を読むと、日本語のカタカナで近い表現にすると「メイヨー」となります。

旅人が具体的な何らかの物があるかどうか尋ねたあとに、店員が「メイヨー」と答えが来るやりとりが多いです。

この場合は日本語で「ない」「ありません」といった意味で、「有」(ヨー、ヨウ)yǒu「ある」「あります」の反対語で、否定形です。

他の用法としては、「いいえ」「~でなかった」という否定の意味を持ったり、「有没有」として「~はありますか」といった疑問文に使うこともある、様々な意味を有する汎用的な単語です。

私が中国語を学び始めて、鑑真号というフェリーで上海経由で寝台列車で初めて北京へ語学留学に行ったのが1991年夏でして、現地でメイヨーの洗礼を受けました。中国語を学習して最も印象に残っている単語の一つです。

旅先でこの言葉を聞くとよくがっかりしたものです。ある意味、80年代から90年代の世相を表している単語ではないでしょうか。

当時の商店の様子と「メイヨー」

1991年に撮影した北京市内のとある中国にある商店店内の写真。「メイヨー」が多発したお店の典型例です。
北京市内のとある中国にある商店店内(1991年8月)

初めて中国へ行ったときに撮った写真です。北京市内で物があふれていた訳ではありませんが、首都だけあって不足はしていませんでした。当時の商店にはいくつか大きな特徴がありますので紹介します。

  • 商品が奥のカウンターに陳列されていること。
  • 「品質~企業にとっての命~」といったスローガンが掲げられている。
  • 現金を収受する支払いカウンターが真正面のおばさんがいる所。

最初に言えるのは、消費者が商品を手に取ることができなかったということです。万引き防止という視点もあるでしょう。

物自体がこれだけ揃っているのは、首都北京という大都会であったが故であり、田舎の町では、これほどの品ぞろえではありませんでした。売られている物が貴重品であったことを示していたのではないかと思います。

北京や上海ではコカコーラやファンタが店頭のジューススタンドで売られていましたが、地方都市でコカコーラが売っている場所は中心部に1ヶ所2ヶ所くらいしかなかった時代でした。

こういった商店でも、残念ながらないものがありましたので、来た人と店員との会話の中でも「メイヨー」が聞こえていました。

実際にメイヨーが使われた場面例

私が体験した実例をお話しします。
現在は、JTBやJRが発行している時刻表のような鉄道時刻表の本自体、中国では存在しませんが、1990年代から2000年代後半までは、旅する毎に携帯用の鉄道時刻表を購入しようと、駅や書店を探していました。

どのようにして探していたかと言いますと、手当たり次第、駅周辺の商店の店員に「最新の鉄道時刻表はありますか?」と尋ね回り、その多くが「メイヨー」だったこと、今でも鮮明に覚えています。

写真のエピソードを紹介します。1992年8月の出来事ですが、西安駅前で時刻表は売っているか聞きまわったのですが、回答が「メイヨー」(ないよ)ばかりでした。
西安駅前で時刻表は売っているか?(1992年8月)

上の写真は、中国旅行を初めて行ってから7回目の1992年8月、夏の暑い西安駅前をフィルムカメラで撮ったものです。

当時、駅前の広場で観光地図を売っている人がそこらじゅうにいたり、駅舎に入る前や周辺の商店がたくさんありまして、店や人ごとに「鉄道時刻表」があるか聞いてまわりました。

メイヨー連発の中国語会話 at 西安駅前広場

具体的な中国語のやりとりを再現しますと、こんな感じとなります。

(中国語会話)
最新的全国铁路时刻表有吗? Zuì xīn de quánguó tiělù shíkè biǎo yǒu ma?
没有! Méiyǒu!
火车站里有吗? Huǒ chēzhàn lǐ yǒu ma?
没有。 Méiyǒu.
那么,到底在哪里卖? Nàme, dàodǐ zài nǎlǐ mài?
不知道! Bù zhīdào!

(日本語訳)
最新の全国鉄道時刻表はありますか?
ありません。
駅の中で売っていますか?
いいえ。ありません。
では、どこで売っているのでしょうか?
分かりません。

余談ですが、「わかりません」(ブーチーダオ)も、中国語学習初期によく聞いた言葉でした。

最近はあまり聞かれなくなったメイヨー

以前は、「メイヨーなくして中国旅行を語れず。」といっても過言はありませんでした。当時は珍しかった中国旅の土産話は決まってメイヨーの話をしていました。

1990年代以降、地方ごとにコカコーラ社との合弁会社が設立されて、工場が中国各地にできましたので、どんな田舎でもコカコーラを飲むことができるようになり、隔世の感を覚えます。

最近は、物が不足することは滅多にないため、中国国内でメイヨーを聞くことは大変少なくなりました。それを寂しいと思うのは、私だけではないですよね?皆さん。

参考リンク

旅行中国語会話を覚えて中国旅行を楽しもう!

寅さんの中国語会話(Instagram)

中国語コーチング日記

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