中国で「外国人お断りの宿が多い理由」住宿登記と旅経験者の知恵
中国を30年以上旅してきた私が多く受ける質問の一つが「なぜ中国では外国人が泊まれないホテルが多いのか」です。
その答えは ”住宿登記” (zhùsù dēngjì)という制度に隠されています。この記事では、多くの外国人旅行者が直面する「宿泊できない」問題の背景と、スムーズに旅行するためのコツを、長年の経験から詳しく解説します。
知らないと思わぬトラブルに発展することがある中国の宿泊事情、ぜひ渡航前にチェックしてください。
外国人は宿泊情報登録が必要
”住宿登記”(zhusu dengji)は、外国人の宿泊情報登録制度を指しております。正式には”境外人員住宿登記”(Jingwai renyuan zhusudengji)といいます。
日本語では、宿泊登記、宿泊情報登録など、翻訳によって言い方はいくつかあるかと思いますが一定していません。
中国で外国人が旅行する場合、72時間以内に所管の派出所へ滞在届を提出しなければならないルールが私が旅行を始めた30年以上前から存在します。
何十年も前から実施している対外国人施策
「中華人民共和国出境入境管理法」という法律及びその細則に基づき実施されている制度で、公安当局が外国人の所在を把握し、国家安全保障と社会秩序を維持することが主な目的です。
条文には「外国人はホテル以外の住所に居住または宿泊する場合は24時間以内に本人又は家主が居住地の公安局で登録しなければならない。」とあります。
短期か長期か滞在期間に関わらず、ビザ取得の有無に関係なく、宿泊先がホテルや安宿、ユースホステル、友人宅などを問わず、外国人が中国国内で宿泊する際に義務付けられています。
”住宿登記”手続きの方法
具体的な方法ですが、宿泊先により異なりますので、それぞれ解説します。
宿泊施設が代行
ホテルなど外国人が多く宿泊する施設では「境外人員臨時住宿登記表」という名称の紙が用意してあって、チェックイン時に記入しているはずです。
安宿の場合
ゲストハウスやユースホステル、個人経営の民泊などに泊まる際も同様に必要なのですが、紙に記入するケースは多くありません。
パスポートを提示した後に、宿のスタッフや経営者がパソコンに向かって情報を入力するケースが多くなっています。
友人宅に宿泊する場合
友人又はご自身がその地を管轄する公安派出所へ24時間以内に出向いて届け出する必要がありますので注意が必要です。
住宿登記に必要な情報
住宿登記に必要な情報で、基本的に必ず求められます。
- 氏名
- 性別
- 生年月日
- パスポート番号
- ビザ番号、種類、取得地
- 入国日
- 帰国予定日
- 連絡先電話番号
- 宿泊期間(チェックイン日・チェックアウト日)

宿泊地により次の情報を求められる場合があります。
- 顔写真
- 訪中理由
- 職業
- 住所
罰則規定
宿泊登記の提出がない場合には、2,000元以下の罰金が科せられる規定があります。現地で宿泊業を経営している方に聞きますと、宿泊者だけでなく、泊めた経営者にもペナルティが及ぶ声を幾度も聞きました。

オンラインで報告できる地区が増加
中国人は宿泊の際、身分証提示が必須で、同様に公安当局への報告を要するため、公安機関が開発したシステムで運用されています。現場で見る限り、地域(管轄)ごとに異なります。
ホテルなど宿泊先がオンラインで宿泊者情報を送信したり、宿泊者が手書きで記帳した帳面を提出しますので、個人旅行者には余り目立って見えないものとなっています。
例えば、広東省広州市公安局がWEBに設けているオンライン登録システムがありまして、個人が滞在登録できたり、登録情報を検索できる仕組みになっています。
広州市公安局境外人員網上服務系統

日本出国時のスタンプ省略が問題?
成田や羽田など日本の国際空港から出国する際、イミグレーションを通過しますが、自動化ゲートが導入されていて、これを利用すると、パスポートをスキャンしたり顔認証による無人審査で、スムーズに出国できます。
一方、中国入国時のイミグレーションでは、外国人は基本的に有人ブースでの手続きとなり、入国管理官がパスポートやビザのチェックをして、必要に応じて口頭で入国目的や滞在先について尋ねて来るのが基本パターンです。
入国管理官のチェックの様子を観察していますと、他国も含めて、過去の出入国歴など、ひととおりチェックしているように見受けられ、スタンプがないと出国日について確認されることがあり得ます。
「自動化ゲートで出国手続きした。」と日本語で言っても通じないので、やりとりに時間を要することがあり得ますので、例え面倒であっても、有人カウンターに寄って、出国スタンプを押してもらうことをお勧めします。
宿泊手続時に関係する場合あり
入国時はクリアできますが、困るのは宿泊時です。外国人慣れしているホテルであれば大丈夫でしょうが、日本人が泊まることが少ない安宿に泊まる場合は次の対策が必要です。
- 出国スタンプ不要なこと説明できるように備え、朱国日が分かる航空券控えを用意する
- スタンプをパスポートに押してもらい日本から出国する
入国後以降、自分の情報は流れている
10年ほど前、知人のリクエストで企画した旅で北京のユースホステルに宿泊した際、フロントスタッフとの会話で分かったのですが、入国したという情報が宿にオンラインで届いていました。
中国入国の際に、外国人は指紋をスキャンしなければなりませんが、パスポート情報とリンクさせるとともに、滞在先情報をオンラインで確認することができるようになっているようです。
これだけを見るとこわい国だなと思うかもしれませんが、犯罪にでも巻き込まれない限りは、影響がある訳ではありません。世界各国の国情はそれぞれで、そういったことを知ることも中国を知ることに繋がります。
実際のところは、旅をするだけであれば、気にすることはありませんので、ご安心ください。
外国人を受入れない宿泊施設が多い背景
中国では、外国人旅行者が宿泊施設から受け入れを拒否されるケースが少なくありません。その背景には”住宿登記”制度に関連する次の列記する複数の要因が存在します。
- 制度に関する誤解と知識不足
- システムへの入力が難しい
- コミュニケーションの壁
- 責任回避の姿勢

制度に関する誤解と知識不足
数多くの宿泊施設、特に小規模なホテルやゲストハウスでは、「外国人客を受け入れる資格がない」と誤解しているケースがあります。
実際には、宿泊施設としての営業許可を有していればOK、又は、簡単な手続を踏めば外国人の宿泊は可能なのですが、そうでないと認識している誤解が受入れ拒否の最も大きな原因となっています。
私自身もこの理由で宿泊拒否をされたことは30年来数え切れません。コロナ後の現在でも同じです。
システムへの入力が難しい
宿泊情報の登録をオンライン化した町が数多くあります。その場合は外国人も同様にオンラインで登録が必要ですが、「システムへの入力方法がわからない。」という理由で外国人の宿泊を断るホテルも多く存在します。
外国人のパスポート情報を各地の公安が構築したシステムに入力する手順に不慣れなスタッフが多いのが現状です。
パスポートの読み取りや情報入力の方法が分からず、エラーが出ることが多く、入力方法を公安に確認する必要があるとそれだけで面倒がられます。トラブルを避けるために拒否する傾向があります。
やったことがない宿泊施設から、それだけで断られたケースは数え切れません。
コミュニケーションの壁
言葉の問題です。日本語や英語など外国語が分からないため、意思疎通ができないことも断られる理由の一つです。
特に地方都市のホテルでは、英語などの外国語に対応できるスタッフが不足しており、コミュニケーション上の困難を避けるために外国人客の受け入れを避ける傾向があります。
特に、外国人とのコミュニケーションに自信がない個人経営者は、無用なトラブルを恐れて受け入れを拒否することがあります。
責任回避の姿勢
派出所への届出については、宿泊者だけでなく、外国人宿泊客の受け入れには宿泊施設にも一定の責任が伴います。
地元公安当局から罰金や注意を受けるなど、宿側が24時間以内の登録義務を果たせなかった場合のリスクを避けるため、最初から受け入れを拒否する宿泊施設も少なくありません。
地方レベルで大きく異なる対応
広大な国土を持つ中国では、地域によって住宿登記に関する外国人対応の状況は大きく異なります。
大都市と地方の格差
北京、上海、広州などの大都市では、外国人観光客が多く、受け入れに慣れているため、宿泊登記の手続きもスムーズです。
全世界で展開しているホテルチェーンや大手ホテルでは問題なく受け入れてもらえます。
観光地と非観光地の違い
西安、蘇州、桂林などの主要観光地では、外国人向けのインフラが整っておりますので、全体的にサービスが充実していますすが、観光地でない地域では受け入れノウハウが不足していることが多いです。
地方独自の解釈や運用
地方都市や農村部といった観光地以外では、外国人対応の体制が十分に整っていないことがあります。外国人観光客の受け入れ経験が少なく、全く経験がないばあいもあります。対応に戸惑うケースが今でも非常に多いです。
中央政府が定めた規則があっても、地方レベルでは独自の解釈や運用がなされることがままあります。
例えば、一部の地域では外国人の宿泊登記に写真撮影を求めるなど、地域ごとに対応が異なることがあります。これは中国の行政システムの特性によるものです。
改善に向けた取り組み
こういった外国人が宿泊に不便している状況を改善して、外国人客のインバウンド受入れを促進するため、中国政府で関係する公安部など3部門は、2024年5月24日に通達を出しました。
外国人観光客から中国政府への苦情といいますか、書き込みがあったことがきっかけになっているようです。

また、ホテル業界では英語コースを実施して、チェックイン、宿泊予約、関連の英語スキルなどのトレーニングをスタッフに提供する取り組みを始めています。
まとめ ~中国渡航者へのアドバイス~
”住宿登記” 制度は中国の法律に基づく重要な手続きであり、外国人旅行者は必ず遵守する必要があります。
近年の政策変更により、外国人観光客の受け入れ環境は徐々に改善されつつありますが、依然として地域差や施設による対応の差が存在します。
旅行者としては、事前の準備と情報収集が何よりも重要です。大都市や観光地では比較的スムーズに登録できますが、地方都市では外国人対応に不慣れな場合もあります。
今後も中国政府の外国人受入の改善が進むと予想されますが、”住宿登記” 制度そのものは維持されると考えます。
外国人の宿泊を受入れした実績がある宿泊施設を事前に予約するなど、対策を講じることで、トラブルを避けて、より快適な旅行をしましょう。
筆者情報

- ブログサイト「中国旅行ドットコム」運営者
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1991年から30年間で70回以上の中国訪問歴を有するベテラン旅行ブロガー。
中国旅行に興味がある方や個人旅行を計画している方、中国のリアルな姿を知りたい方向けのブログサイト「中国旅行ドットコム」を運営。
大都会の路地裏から田舎の町や村まで足を運ぶ、ツアーでは決して体験できない独自の旅行スタイルを持つ。
【個人旅の実績】 訪問した省・市・自治区:32(残1) 訪問地:200以上
【印象に残る旅のエピソード】 数え切れず
【撮影した写真】 45,000点以上
安宿に泊まり、長距離バスや夜行列車などのローカルな移動手段を使って、現地の人々と触れ合い、肌に感じる旅をして、リアルな中国渡航情報を発信中。
1日100元以内での滞在に挑戦するなど、旅の費用を抑える工夫が得意。独自の旅のノウハウを有し、海外モバイル経験も長く、ANA陸マイラーでもある。
旅先での中国語会話を実践して、通じる中国語を教えることにも取り組んでいる。中国語に堪能でVIP通訳に従事したことがあり、訪日視察団のアテンドをしたことも。経験を活かして、コミュニケーション促進のための中国語も含め講師として教えて6年超。
ブログをご覧になられた読者との交流も大切にしており、いただいた質問に対応したり、いただいた情報をブログや動画に反映している。
詳細は作者紹介をご参照ください。問合せはこちらまで。
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